第三章 出会いの歌

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天はとりあえず口を開いた。 「さっき」 「ん?」 「歌ってたの?」 ああ、と少女は明るく顔を上げた。 「テルミンね」 「テルミン?」 「あれだよ、あの音だったんだ」 彼女はすぐ近くの木箱を指差した。 天は少女に連れられて一緒にその箱を覗き込んだ。 「さっきから気になってたんだけどさ、これ……何?」 「楽器だよ。電子楽器」 心なしか彼女は興奮していた。 「こっちの垂直なアンテナで音程を、でこっちの水平になってるアンテナで音量を変えられるの」 少女は勝手に説明を始めた。 「二つの高周波発信器の働きで音を鳴らすんだよ。あ、それは別に二本のアンテナのことじゃなくって、一本のアンテナに対して、もう一つ同じものがこの木の箱の中にあるってことね」 「じゃあ、テルミンの中には全部で四つ、その……コウシュウハハッシンキがあるわけだ」 天はわからないままになるのが嫌だったので、念のために聞いただけだったのだが、彼女はそれを勝手に“興味をもってくれた”と解釈してしまったようだ。彼女はやたら嬉しそうに説明を続けた。
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