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「君にとっては余計なお世話かもしれないけど」天は口を開いた。「このままの生活を続けることはあまり勧めたくはないな」
「うん」
「下手したら明日にでも死ぬかもしれない。普通の人間の寿命の半分かもしれないんだ」
「……うん」
ゆきるは頷き、頷き、……何度も頷いて、そしてやがて軽く肩を震わせた。
「……うん。……わかってる」
天はゆきるの横顔を盗み見た。
固く結んだ唇が震えていた。
今にも泣き出しそうな瞳は黒く濡れていた。
――どうしてこんな。
その言葉はのどでつっかかったように、出て来ないまま消えた。
ゆきるのその横顔には、何も問うことが出来なかった。
――どうしてこんなところに住んでいる?
「天」
ゆきるは引きつった妙な笑みで天を見た。
「……もうすぐ日が暮れる。帰ったほうがいいよ」
天は抵抗をやめた。
「……うん」
向きを変え、歩き出す天の背に、ぽつりと、ひどく弱弱しい声がかかった。
「……ごめんね。……外……怖いんだ……」
天は滝の音で聞こえなかったふりをして、速度を速めて森の出口へと急いだ。
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