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うっすらと、朝の淋しい風が頬をなでていた。
ゆきるは身を起こした。
滝の音が遠くに響いている。
空には梅雨が開けたばかりの雲ひとつない青空が広がっていた。
ひとしきり空を仰いで、やっとゆきるはうしろの物音に気づいて振り返った。
「……おはよう」
決まり悪そうに、小さな額に軽く皺を寄せて、その少年は呟くように言った。
「おはよう」ゆきるもそう答えて立ち上がる。「ちょっとびっくりした」
「もっとびっくりするかと思った」
天は微笑して言った。
ゆきるは首を傾ける。
「どしたの?今日は昨日と違う時間じゃん」
「今日は学校休みだから」
「あ、学校ね」
ゆきるは話題を避けようと目線を逸らした。
天はそれを察したらしい。
向き合うのをやめて大木の窪みに腰を下ろした。
「……ごめん」
唐突に、天は呟いた。
「え?」
「昨日は、ごめん。……それを言いに来たんだ」
童顔の横顔に苦しげな表情が浮かんでいた。
「ホントは……君の生き方を否定するつもりはなかったんだ。……だから、ごめん」
天はちらりとこちらを見た。
その不器用で馬鹿みたいに正直な目が、意味もなく可愛くて仕方がなかった。
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