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「あたしは、嬉しかったんだ」
ゆきるは笑った。
「大好きな楽器の話とか、生き物たちの話とかを、笑ったり、馬鹿にしたりしないで聞いてくれたこと。……すごく」
ゆきるは軽く目を閉じて顎を上げた。
「……嬉しかった」
天もつられて空へ目を移した。
「そっか……」
訪れた沈黙は長かった。二人はその間、多分何も考えていなかった。
「……そうだ」
ふと思い出したように、天は声変わりしたばかりの、奇妙に裏返った声を上げた。
それを恥ずかしく思ったのだろう、やはりゆきるから目を逸らし、そのまま手に持っていた袋を差し出した。
「……これ……”外の世界“のモノなんだ」
きょとんとしてゆきるは天を見た。
天は慌てて付け足す。
「べ……別に外の世界に連れ出そうとかそんなこと考えてるわけじゃないんだ。ただ……少し……知って欲しかったんだ。……世界はもっともっと……広いんだってこと」
ゆきるはしばらく黙った。
どうすればよいのかわからずにいた。
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