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あれから数回か巡った同じ季節だった。
砂虎は空に溶け込んで行く高い木々を眺めた。
そのままゆっくりと目を閉じ、暖かな日光を頬に受けた。
瞼から透ける紅い光を十分に感じて、大きく息を吸った。
意を決意したようにしっかりと目を開くと、砂虎は腹の底から大声を上げた。
「おい」
びくりと肩を震わせた少女は、青い海の中に同化しているようだった。
しばらく固まったまま動けなくなっている彼女を見て、砂虎は言葉を重ねた。
「なにしてんだ?……そこで」
風が森の中を駆けた。
葉のこすれる音を聞きながら、彼女はゆっくりとこちらを振り返った。
希望と不安と、そして微妙に恐怖さえたたえたその目は、不思議なほど美しかった。
しかし、その瞳はすぐに曇った。
口元に苦笑としか呼べないような笑みを浮かべ、彼女はそっと言った。
「たいせつな人……呼んでるんだ」
砂虎は頷いた。「そうだろうな」
彼女は、今度はもう少しまともに笑った。
それを手招きとして受け取って、砂虎はゆっくりと波打ち際へと近づいていった。
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