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「……ねえ」彼女が黒い目を上げた。「話して、いい?」
砂虎はその目を見返して、とぼけて笑ってみた。
「何をだよ」
少女もそれにあわせて小さく微笑んだ。
「彼のこと。ぜんぶ」
砂虎はため息をついた。
「そんで、おれはそのあとどうしたらいいんだ?」
「いいの。聞いてるだけでいい。反応しなくても、……そう、無視したって構わない。あたしの記憶を、一つ残らずぜんぶきみに話す」
砂虎は黙って頷いた。……きっと、自分はそのためにここに来たのだ。
風が彼女の髪をなびかせた。
目を細めて顔を上げた彼女は、遠い空を眺め、今まで封じ込めてきた尊い記憶を、懸命に探っているように見えた。
「……懐かしいなぁ……」
くすりと笑みをこぼして彼女は言った。
「あのとき、……彼も、キミと同じことを言ったんだ……」
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