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日が落ちて周りは薄暗かった。雨が降っていたが俺は構わずケータイで話しながら歩いた。体が濡れてもカサは欲しいとは思わなかった。今は、どうでも良い事だった。それより俺はヒトを殺そうとしていた。
「中川が川怜町公園の角を右に曲がった。アナタも、そこから右に行って」
ケータイからの声だった。中川は殺そうとしてるヒトだ。指示の通りに歩いた。俺は中川を殺せと言われて、そうしようとしてるだけだった。中川って人が死んだら友人とか家族とか泣くんだろうな。俺は、それをしようとしてる。死んだ方が良いのは俺かも知れない。そのための道具もある。
「中川が、そっちに向かってる。準備して」
頭が現実に戻った。何も考えてはいけない。どうせ俺は言われた通りに殺すのだから。
トレーナーをめくってベルトに、さしてある拳銃を取り出した。マガジンを抜いて弾が入ってると確認した。それを銃に戻すと銃のスライドを引いて撃てるようにした。安全の為にデコッキング・レバーというのを押し下げてハーフコックとか言う状態にしてからベルトに、さした。それらの動作は、ひとつひとつ確かめながらじゃないと出来なかった。まだ銃に慣れたばかりだった。足の幅を肩幅より少し広めにした。撃つ時の体勢だった。足の幅が狭かったから広げた。
「じゅ準備した」
電話の相手に伝えた。
「そこで待ってて。中川が来る」
「分かった」
しばらくすれば中川が来ると思ったが誰も来ない。
「だ、誰も来ないけど?」
「あと二、三分で中川が見える。それより、そっちは大丈夫なの?」
「…大丈夫」
「私が、かわりに殺っても良いけど?」
「大丈夫」
電話の相手はスナイパー・ライフルを持ってるから中川を撃とうと思えば撃てる。でも、それは俺が失敗した時の話だった。何も言われてなかったけど俺は使えるかどうか試されてると思う。「かわりに、やってくれ」なんて言ったら失格だろう。
ヒトの姿が見えた。スーツを着てカサをさしてる。こっちに歩いて来る。
「中川が見える?」
「スーツを着た男のヒトが…」
「その男が中川」
目の前は線路だった。警報機が鳴り始めて遮断機が下りた。
「どうすれば…」
「そのままで良い」
電車が通る。中川が見えなくなった。電車が通り過ぎると中川は線路の向こう側にいた。当たる距離だった。拳銃を抜いてハンマーを起こし銃を向けた。中川が慌てて懐に手を入れたが俺が撃つと倒れた。
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