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俺がこれからしようとしたことを見越したように、彼は言った。俺は、壁のスイッチに触れていた指を離した。
「何を見ている?」
と、俺は彼の隣に行き、目線を追った。
「――街を見ていた」
とだけ、彼はぽつりと言った。
「街を――か……」
黒いビロードの上に、宝石箱の中身をぶちまけたような華やかな光の群れ――きらびやかだが毒々しいネオンに彩られたこの街に、彼はまったく似つかわしくなかった。
彼のその白い手で、どれほどの人間が地獄に送られたのかは分からない。恐らく、俺と大差はないのだろう。だが、それでも彼は穢れていないのだった。少なくとも、俺にとっては。
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