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 俺はコートを脱ぐと、椅子の背もたれに無雑作にひっかけ、においの強いギリシャ煙草に火をつけた。ライターの炎に浮かんだ彼の白い横顔は、ひどく頼りなげに見えた。  この部屋だけが、窓の外の騒々しい世界から切り離されているかのように静かだった。窓の外に見入っている彼を、俺は無理やりこちらに向かせた。暗い中でも彼の灰色の瞳は、はっきりと見える。 「ミハイルとは、天使の名だったな」 「どうした、いきなり?」 「――ミハイル、おまえを抱きたくなった」 「いつもながら強引だな」  彼は、軽く咎めるように言った。 「いやか?」  答える代わりに、彼は自分から唇を重ねてきた。激しい口づけだった。  俺は、ブラインドを下ろした。
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