6/9
前へ
/19ページ
次へ
 何故か分からないが、人を殺した晩は、むしょうに彼を抱きたくなる。抱く、と言うよりは犯す、と言ったほうがふさわしいかもしれない。それは、愛の行為などというやさしいものではなかった。  彼に対するこの感情を、愛と呼べるのだろうか。俺も彼も、そんな三流のメロドラマめいた言葉を口にしたことはなかったし、これからもないだろう。だが、俺が彼に魅かれていたのは事実だった。  彼の紅い髪は、血を連想させた。また、その紅こそが彼にふさわしかった。 「――綺麗な色だな」  俺は彼の髪を一ふさ手にとり、口づけた。彼は、そんな俺を見て、あきれたように言った。 「綺麗? この色がか?」 「ああ、俺はそう思うぞ」 「君は……紅は何の色か知っているか?」 「さあな」 「紅は、罪の色だよ」  彼は、こともなげに言った。楽しんでさえいたようなその彼の言葉が、いつまでも俺の耳に残った。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加