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 野球部員として初めての公式観戦は、彼に何をもたらしたのだろうか。それはキップを手に入れることが出来なかったという、最終結果もそうだろうし、何より彼の性格がそんなに感情をむき出しにしゃべる種類のものではないからだ。  “来年は、ぜってー……”  桂の前で保臣はそれだけをこぼした。  言葉は少ないが、だが桂はそこから、心の奥底からみなぎる熱い何かを感じたような気がした。  夏の大会は一つの大きな区切りの大会でもある。  三年生が引退するのだ。  そして甲子園に行くことがなければ、もう頭は次の秋季大会に切り替えなければならない。  そこで保臣の野球部として組み込むのが、夏休みを利用しての二週間に渡る、都外での、集中強化合宿であった。  しかしこの合宿は全員が参加出来るわけではない。  残留した一軍のメンバーと、今後に有望と思われる二軍から厳選されたメンバー限定なのだ。  三軍、選ばれなかった二軍の部員はおとなしく学校での練習となる。  保臣は合宿のメンバーに入ることが出来た。  “行ってくる”――そう言って彼が出かけてから一週間。更にあと一週間は、向かいの部屋の電気がつくことはないのだ。
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