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(本当に、別々の道を歩み始めたんだな……)
学期末テストもあって、先月は桂も自由な時間が作れる身ではなかった。桂の学校は進学校である。テストで良い結果をとらなければ、そこに通う意味などないのだ。
保臣も桂も、先月がお互いにとって忙しい月であると理解しあっていた。
だから、会う回数はほとんどなかった。
会っても、少しの会話程度だ。
肌を触れ合うことは全くなかった。
「桂ー!保臣君から電話よー」
「!?」
突然、階下から母親の声があがる。
「もしもし……?」
台詞の内容がいまいち信じられはしなかったが、廊下に設置してある子機を手に取ると、部屋に戻りながら桂は電話の相手に声をかけた。
『あ、オレオレ』
「!」
紛れもない、声の主は保臣だった。
ドキン……
『元気してた?』
「……」
後ろ手にドアを閉めた桂は、早まる鼓動を落ち着かせる為にも、ドアに寄りかかりその場に留まった。
『桂?』
「……あ、ああ。元気だ」
ドキン……ドキン……
『そりゃよかった』
向こうから安堵したような、優しい声が漏れる。
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