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「九郎…」
振り向くと、父上が立っていた。
見た事もない、綺麗な姫と共に。
「九郎…」
その方が、再びそう呼んだが、男の子は振り向く事をしなかった。
「母上にお別れをなさらぬのですか」
私の父、運慶が尋ねても、男の子は何も答えなかった。
「良いのです…
強く…強く生きるのですよ」
姫様は、そう言い残して、私の社を後にした。
九郎と呼ばれた男の子は、真っ赤な目で前を見据え、流れる涙を拭おうともしなかった。
私は、男の子の小さな身体に秘められた。大きな決意を見た気がした。
台与…九乃歳
九郎…五乃歳
遅咲きの桜が舞散る季節だった。
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