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「よし、もういっちょこい!」  公園の端から全体まで、おれの相方の声が響く。それと同時に返球を返され、差し出したグローブの中に収まる。この毎回正確な返球が中学のころから助かっている。 ここは長野県の諏訪という所の第一公園。近くに湖があり、ボート等で泳いでる姿が見える。そして、先ほどの言葉に答えるために、もう一度振りかぶる。  オードソックなオーバースロー。  指先から高速回転した球は、山なりに18m間を飛んでゆき、ミットへとおさまる。 「ナイボー!・・・あいかわらずおせー球だねえ」  そういいながら相方の斎川修二(さいかわ しゅうじ)が苦笑する。童顔で、人を食ったような性格をしている。 キャッチャーにしては小柄な体格だが、送球の正確さとよく飛ぶバッティングはなかなかのものだった。しかし、中学の顧問の先入観や主観的考えにより、全くと言って いいほど試合に出る機会がなかった。  そしてその斎川脩二に球をほうる人物がこの俺、大居智洋(おおい ともひろ)だ。大柄な体格の割には全くスピードの無い球だが、持ち味の切れで闘っている。しかし、この俺も監督の被害者の一人だ。 「脩二、今度こそは大丈夫だよな?」  本日、何度目かの速球を投げ込みながら問う。 「・・・ああ。野球部はそんなに強くないけど、監督はあの名将だ。きっと僕らの持ち味をいかしてくれるよ」  正確な返球をしながらの返答。確信は持てないが、心にゆとりは持てた。 最後に、もう一度だけ野球の神様を信じてみよう。  明日は、俺らの高校、私立粋形学園(しりついきなりがくえん)の入学式だ。
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