7人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんなに……」
自然な黒の、短髪が苦笑する。
「俺応援団もあるのに」
まあまあ、と誰かの声がした。
「君の才能を今使わずしていつ使うのだ」
そして鉛筆が、競技ごとのメンバー表へ和也の名前を書き込んでゆく。
「んなこと言って。和也だって、やる気なんだろ」
机へ手をついた、応援団長の役に当たる友人が、横目で和也へ挑発的な視線を向けた。
「まあな。俺に出来ない競技はないぜ」
少々顔をのけぞらせ、得意気に彼は鼻を鳴らした。
昨年の体育祭、選抜リレーにて、当時2年だった和也が3年の陸上部に在籍する選手を抜いて、ゴールテープを切ったことは、その場の誰もが知っている。
調子乗りやがって、と集まった仲間から笑い声が起こった。
「いやでも、実際スポーツだけは万能だからな、和也は」
「スポーツだけはね」
「水泳を除いてな」
笑みを含んだ声が、10人弱の生徒の口からそれぞれに発せられた。
「あれ、和也って水泳苦手なの?」
談笑の輪に、作りかけの衣装を手にした茜の声が落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!