*要の怪談

3/7
前へ
/160ページ
次へ
「そんなに……」  自然な黒の、短髪が苦笑する。 「俺応援団もあるのに」  まあまあ、と誰かの声がした。 「君の才能を今使わずしていつ使うのだ」  そして鉛筆が、競技ごとのメンバー表へ和也の名前を書き込んでゆく。 「んなこと言って。和也だって、やる気なんだろ」  机へ手をついた、応援団長の役に当たる友人が、横目で和也へ挑発的な視線を向けた。 「まあな。俺に出来ない競技はないぜ」  少々顔をのけぞらせ、得意気に彼は鼻を鳴らした。  昨年の体育祭、選抜リレーにて、当時2年だった和也が3年の陸上部に在籍する選手を抜いて、ゴールテープを切ったことは、その場の誰もが知っている。  調子乗りやがって、と集まった仲間から笑い声が起こった。 「いやでも、実際スポーツだけは万能だからな、和也は」 「スポーツだけはね」 「水泳を除いてな」  笑みを含んだ声が、10人弱の生徒の口からそれぞれに発せられた。 「あれ、和也って水泳苦手なの?」  談笑の輪に、作りかけの衣装を手にした茜の声が落ちた。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加