*要の怪談

4/7
前へ
/160ページ
次へ
「あ、水谷さん。それは俺の衣装かな」  他の団員とは見るからに異なる、手の込んだ細かな竜の刺繍を目にして、団長が声をかけた。 「そう。要、着てみて」  要と呼ばれた男子生徒は、言われた通りに袖を通す。 「和也って、スポーツ万能のくせに、水泳だけはからきしなの」  要が衣装の着心地を確かめている間に、他の男子生徒が茜の問いに答える。 「25メートル泳げないもんな」  そしてそれを和也が、ふてくされたように肯定した。 「へえ、意外」  茜の丸い瞳が、大きさを増した。 「どうしてなのかな」  2つに分けて両耳の脇でまとめられた茜の髪が、首を傾げた彼女の動作に伴って、わずかに揺れた。 「子供の頃に溺れたんだとさ」  試着を終えた要が、衣装を茜の手へ戻し、特に問題はないと告げた。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加