悲劇

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「恵太…潤…」 流石の冬哉も冷静さを保てなかった。 二人が転落した崖にふらふらと歩み寄る。 「冬哉!!」 慌てて優がその腕を掴む。 「駄目だよ!!冬哉まで!!」 その言葉に冬哉の目に生気が戻る。 「…悪い。早くこの山を降りよう…」 「うん…ここは何かおかしい……」 冬哉と優が踵を返した時、冬哉が突然転倒した。 「冬哉……!!」 倒れた冬哉の足を青白い手が掴んでいる。 その手は徐々に冬哉を崖に引きずって行く。 「冬哉! 手を!!」 冬哉が完全に落下する寸前、優が伸ばした手が冬哉の手を掴む。 「ぐっ……!」 予想以上の肩への負荷に思わずうめき声を出す優。 だが手を離す訳にはいかなかった。 「…優…!!」 見ると、冬哉の腰辺りに白い人影が見えている。 「冬哉を…返せ…!!」 気丈に言い張り、全力で引き上げようとするが、かなりの力に負けそうになる。 ふと、そいつと目が合った。 暗く冷たく光る目は、確かな殺気を宿していた。 …ジャマヲ…スルナ… その目が一際光ったと思った瞬間、優の心は恐怖に染められた。 「…ぁ……」 優の意識が一瞬混濁した。 そして…その一瞬が冬哉の命運を決めた。 ほどける手。 「冬哉ぁぁぁぁ!!!」 優は絶叫し…意識を手放した… ……アト…ヒトリ………
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