蒼い月

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なんの感情を持ってはいけない。 これが死神のルールだ。 僕は、振り返りもせず その場を立ち去る。 木陰に入って、死神から普段の姿に戻った。 一仕事を終えた後だが。 また、虚しさだけが広がっていく・・・。 達成感も無ければ、やりがいも無い。 そして、誰が喜ぶ訳でもない。 ・・・悲しむ人は、たくさん居るのだろう。 後ろから聞こえてくる少女の泣き叫ぶ声。 「お母さん!  どうしたの?!お母さん!」 命ある者は、いずれ必ず消え行く定め。 万人に与えられた権利であり義務だ。 死神は、その自然の摂理を実行する為に、 霊界から派遣されている。 死の匂いとオーラを見てその者の、 死に時を決める。 これが死神の役目なのだけど・・・。 なんとなく、ここのところ調子が悪い。 少女の周りに人だかりが出来て、 うるさいサイレンと共に 救急車がやって来た。 恐らく死因は、心臓麻痺とかそんなのに なるだろう。 だけど、もうそんな事は どうでも良くなってきた。 たまらない虚しさを感じる時がある。 この役目が本当に必要なのかな? 人は、ほおって置けば寿命で必ず死ぬ。 それを、わざわざ人生という 列車を途中下車して貰うのだ。 僕は、この世の者のものでは無い存在。 それを人の姿をして真似をして こんな所で何をしているんだ? ぼんやり そんな事を考えていると・・・ ドカッ! 何かが足にぶつかった! 見下ろしてみると、まだ幼い子供だ。 スケッチブックとクレヨンが 辺りに散らばる。 スケッチブックは、たまたま出来ていた、 水溜まりに落ちてビショビショに 濡れていた。 「あぁ~」 「せっかく、上手に描けたのに・・・」 少女は、心底残念そうに言った。 「ごめん!少しボーっとしてた!」 「スケッチブックは弁償するよ!」 そう言って僕は、 落ちたクレヨンを拾い集めた。
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