蒼い月

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少女は、うつむいて落ちたスケッチブックを 眺めている。 「これ、お母さんに  買ってもらった物なのに・・・」 少し、落ち込んでいる様なので、 僕が更に謝ろうと近づくと 「いいよ!お兄ちゃんは悪くない」 「あたしが、 ドジっただけだから気にしないで」 少女は、軽く照れ笑いをしながらそう言った。 顔は色白で、 普段は外で遊んでないのかもしれない。 その姿を見て何故か、心が動かされた。 僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになり、 少し強引に近くの文房具屋で、 新しいスケッチブックを買って プレゼントした。 「ところで家は近くなのかな?」 また、公園に戻って話をした。 「うん。」 「近いけど、今誰も居ないから・・・。」 「お母さんは?」 そう聞くと、 少女は公園から見える大きな建物を指差して 「あそこに居るの。今入院してる。」 この辺りでは一番大きな病院らしい。 「お兄ちゃんの名前は?」 「え?!僕の名前は、蒼・・えっと天河蒼士」 「あたしは、夏美」 早速、仮で作った戸籍ってのが役に立った。 もともと、僕には名前が無い。 必要ないからだ。 何故なら、 ただの自然のシステムに名前など要らない。 山に吹く一陣の風、落ちてくる一粒の雨 照りつける日差しに名前が無いようにね。 ただ着物が蒼いから「蒼の死神」と呼ばれる こともあるんだけど、僕の名前じゃない。
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