蒼い月

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家には、母親が居ない間、叔母さんが 来てくれて身のまわりの世話を してくれているらしいが、 叔母さんは、夜遅くにしか来ないらしい。 母親のお見舞いの後、 ここで一人で遊んだり 絵を描いたりするのが最近の日課の様だ。 時間もある事だし、 夕方まで一緒に遊んであげる事にした。 そして、時間が過ぎ・・・。 「お兄ちゃん。今日はありがとう!」 「また、明日も遊んで・・くれる?」 僕は、快く頷いて約束した。 実は、夏美の話は、 この世界を良く知らない僕にとって 興味深い話だった。 学校での話、町に出来た新しいお店の話。 他愛のないTV番組の話。 今の僕には貴重な情報源、 それが重要な事だった。 ・・・それだけのはずだったのに。 その日から、何日か遊んだある日。 いつものベンチのある場所に、 僕が行くと夏美が絵を描いていた。 何を描いてるのかと、こっそり 近づくと・・・ ハッ!と振り返りスケッチブックを隠す。 「見ちゃダメ!」 「後で見せてあげるからダメだよ!」 「うぅ・・・」 あまりの勢いに、少したじろいて いつものベンチに腰掛ける事にした。 「お兄ちゃん?」 「何だい?夏美ちゃん?」   「今度、お母さんが  会ってみたいって  言ってるんだけど?」 「いいかな?」 いつも母親の見舞いに行く時に、 僕の事も話してるみたいだ。 「うん。会うぐらいなら   別に構わないけど?」 「じゃあ、約束ね!」 「あぁ、約束するよ」 夏美は嬉しそうに、またスケッチブックに 視線を移した。 「え?!」 今まで、気付かなかった事だが・・・ 夏美の周りに薄っすらと、 赤い死のオーラが見える。 いや? 本当に、気が付かなかったのか? 僕は無意識に姿を消し・・ 何も無い空から鎌を取り出す。 そして、夏美の後ろに・・・ まわりこみ、そっと鎌を振り上げる。 うわぁぁぁあ!! 殺しちゃダメだ!! 辛うじて、我にかえって鎌を消し、 元の姿に戻った。 呼吸を整えて 平静を装うとするが・・・ 「あれ?」 「お兄ちゃん?どうしたの?」 「いや、何でもな・・・」 「それよりも!」 「夏美ちゃん!」 「どこか具合が悪いのかい?!」 「お兄ちゃんの方こそ?」 「顔が真っ青だよ?」 「いや・・何でもない」 「うふふ。変なお兄ちゃん」 クスクスと何が可笑しいのか笑う夏美。
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