蒼い月

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その次の日曜日、約束どおりに 病室の前に居た。 病室のネームプレートには、 日吉川 園子と書かれている。 軽く、3度ノックして静かに ドアを開けて病室に入る。 ベットには、半身を起こして女の人が 座っていた。 「あの?どちら様でしょうか?」 当然の質問だと思う。 「あ、僕は・・・」 ハッと気がついた素振りで、 ベットの上の女の人は言った。 「あぁ! ・・・もしかして、貴方が夏美の     言っていた。天河さん?」 「はい、そうです!」 「はじめまして。  この度は・・・ご愁傷さまです。」 「・・・はじめまして  夏美がお世話になっていた様で・・・」 話を聞くと自分は元々体が弱く 旦那と離婚してから生活の為に キツイ仕事場で働くようになって それで体を壊して、 ずっとこんな生活が続いていたそうだ。 そして、娘の夏美の死因は 過労によるショック死という 診断をされたという。 学校でも虐めなどを、受けていたらしくて 自分の家にも居場所が見つけられない。 それが、不憫でならなかった。 母親としての責任を しっかり果たせなかった自分が、 こんなにも腹立たしく 思ったことは無いと・・・。 一通り、話し終えてから、 落ち着いたところで。 「そうだ、もし良かったら・・・  リンゴでも召し上がりませんか?」 「そこにあるやつを  一つ取ってくれませんか?」 フルーツが置いてある編み籠から リンゴを取り手渡す。 それを、園子はナイフを使って 綺麗に剥きあげる。 「はい、どうぞ。」 一切れ、口に入れると・・・ 程よくみずみずしい甘さと香りが 口の中に広がる。 「美味しい・・・。」 今まで、食べ物を食べて 味がしたことなんて無かった。 お腹も減る事もないし、 物を食べるなんて習慣さえなかった。 なんだか、だんだん人間に なっていくみたいだ。 「あらっそう!嬉しいわ~!」 と微笑む園子。 その笑顔を見て 夏美の微笑む姿が重なる。 流石は、親子というか・・・。 少し、沈んだ気分になった。 また、今度来てくれと言われた。 渡したいものがあるらしい。 また来ると約束をして、 リンゴのお礼を言い病室を後にした。 帰り際に同じ階を廊下を歩いていると、 十字路に黒い影が見えた。
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