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教室を出た悠人は雄太を背負っている雅也を先に走らせて後ろから追った。
それにしても冴子のあの顔。鋭い眼孔の中に悲しみの色が窺えた。やはり、いじめのせいか…
悠人は次第に冴子に興味が湧いていった。だが、同時にそんな自分に恐怖感を抱いた。
「まだかよ…」
雅也は泣きそうになりながら走り続ける。さすがは運動部だけある。
悠人は自分に余裕が産まれているのに気付いた。あんな場面を目撃したとは思えないほど落ち着いていた。
同情している?
俺があの冴子に?
最後に見せた悲しい瞳が胸に重くのしかかっていた。
あれから数分がたった。出口はまだ見えない。もうすぐなはずだが、雄太を背負っている為に雅也が速く走れない。
「おい雅也見えるか?出口だ!頑張れ!」
雅也は顔を上げ前を向いた。すると、雅也の顔が緩んだ。
「ったく、雄太の奴重すぎだぜ!」
雅也は雄太を背負いなおすと出口を目指して走り出した。
「さすがだな、おい!」
悠人は雅也の肩をバシッと叩いた。
「いてぇよ!」
悠人はさっき流し台のそばで震えてた奴だとは思えないなと笑いながら思った。
三人は出口の前に立った。
「やっと、帰れるな…」
雅也が静かに呟いた。
「そうだな、さあ、出るぞ」
悠人はドアに手を掛けて前に押し込む。ドアは拍子抜けするほど簡単に開いた。そのドアを手で押さえながら二人を外へ出した。
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