花よ……

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ひとひらの花弁がひらりと散った。 ゆらゆら、ゆらゆらり。 ふわりと滑ったそれを見て、体中に違和感が満ちた。 真っ白な病室、真っ白なシーツ、真っ黒な空からは真っ白の雪。 この部屋は愚か、窓の向こうの世界すらも真白にある。 僕は桜の芽吹きを見ることは無い。 チューブから酸素が送られて、腕には幾本もの管が埋まり、僕の脈動はことごとく線に表される。 その横の八十五を前後する数字の意味なんて僕は知らない。 ねぇ、僕は生きてるのかな。 毎日毎日たくさんの人が現れては大丈夫かなんて聞いてはモニターばかり気にして、母さんや父さんだってそうだ。 見舞いに来たって先生様と話してばかり。 僕が寂しいと言っても、アナタのためなのって言って結局それだけ。 元気になったらたくさ遊ぼうなってそればっか。 みんな本当に僕が元気になると思ってるのかな。 チューブが無いと、管が無いと、先生様がいないと生きることなんて愚か呼吸すら出来ない僕が。 手の感覚も足の感覚も無くして僕が元気になるとでも? 「ふざけんなあぁぁぁあっ!!」 嫌だ! 嫌だよこんなの! 病院なんて大嫌いだ。 どうしてみんな機械ばっかり見るの? 機械が八十五じゃないとダメだから? 僕がどんなに寂しくて悲しくても八十五なら大丈夫なの? どうして母さんや父さんは先生の話ばかり聞くの? 状態は変わりなく膠着状態が続いていますって悲しそうに言う先生の言葉がそんなに聞きたい? 僕のお話はそんなお話よりつまんない? 毎日毎日同じ言葉を聞ければ僕の話なんて必要ない? 「もういやだぁ!こんなの生きてるんじゃないよ!ただ生かされてるだけだよ!」 チューブを抜く。 感覚の無い腕が不思議な程に動いてくれる。 管を引き抜き、胸に張り付いた吸盤を剥がす。 響き渡る警報に先生がやって来た。 また先生の話を聞いていた母さんと父さんも一緒に。 先生の後から入ってきた二人の看護士に押さえつけられて注射を打たれた。 「お願いだから死なせてよ……」 まどろみ始める意識でそう懇願する。 「もうすぐだから頑張りなさい」 「我慢して……ね?」 「ちゃんと私が君を治すから……な?」 頑張れ? 我慢? つか治るの? 五年も頑張って、五年も我慢して、五年も治療してそれでも足りない? せめてまどろみの宵に幸せを求め、僕は夢へと沈んだ。
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