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彼の線香花火が池の水面に落ち、幾重の波紋を作る。
その様を未だ猛る私の線香花火が照らしていた。
線香花火には他の花火と比べ、本当に小さいけれども音がある。
パチッ、パチッ
耳を澄ましてようやっと聞こえるそれは、何故か何かを刻む音に聞こえた。
一生懸命に瞬く光と音にどうしてか私はそれに人間の一生を重ねてしまったのだ。
それは恋であったり、それは希望であったり、それは夢であったり。
様々なそれが重なっては消えていく。
例えばそれを私は派手に舞う花火に重ねただろうか?
答えは否であろう。
持論ではあるけど、人は努力をしている時こそ輝いていると思う。
それが派手に、人を魅せる輝きではどこか不穏感が付きまとってしまいそう。
やはり私は線香花火の様な目を凝らさねば見えない努力の方が好きだ。
線香花火の様に慎ましく努力を続ければ、
「あっ」
ぽたん
徐々に力を失し、輝かなくなった線香花火はそれはまた小さな音をたてて消えた。
しばらくその跡を見つめる。
線香花火の輝きが、線香花火の音が、まだちゃんと目が、耳が覚えてる。
しばらくの間、その余韻に浸った後、口を先に開いたのは私だった。
「今ので最後の終わっちゃったし帰ろっか」
「そうだな。それにしてもファミリーパック買ったのにあっと言う間だったな。花火」
「そうだね。でもちゃんと心に残る物があったでしょ」
「あぁ。得に線香花火が」
例えば線香花火の様に、誰に主張するでなく慎ましく努力を続ければ、きっとそれは自分の中で後々まで残り続ける。
例えば恋が、希望が、夢が潰えてもそれはきっとそうだと信じてる。
ただ、まぁ、ずっと消えないで欲しい線香花火ならいいなと思うこともあるわけでして……。
「それじゃ帰ろっか」
宵の闇に咲いた花の残骸詰まったバケツ。
片手にそれを持ち、彼が空いた手を私に差し伸べた。
「うん」
笑顔を浮かべながら握った彼の手は仄かに温かかった。
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