彼女の言い分

2/2
前へ
/32ページ
次へ
時を同じく食事をし、遊び、眠る。 そんな日常にたゆたう。 ━━可愛いな、お前。 そう言って、彼は私の頭を撫でた。 聞き飽きたその言葉でも甘美で、思わず身を竦ませながら目を閉じる。 ━━愛してる。 分かってるよ。 だって毎日どころか、一日中に何回も聞かされているから。 ━━じゃあ、いってくるね そう言って彼は玄関に向かった。 私と彼が出会った頃に買われた、白を基調としたスニーカー。 それもいつの間にか土の色をしていた。 その使い古しを履き、彼がドアに手をかける。 ━━今日はデートなんだ。 そう嬉しそうに微笑んでみせた彼に、私はただ見送ることだけをした。 ぱたん ドアが閉まる。 ……とても悔しい。 私は誰よりも彼を知っているのに。 誰よりも彼と一緒にいるのに、いつも彼の一番は知らない女ばかり。 前の彼女に振られた時も、慰めたのは私だ。 毎日同じ布団で眠るのも私。 それなのに決して私は一番になれない。 仕方のないことだとは思う。 生まれついての叶わぬそれだと、よく分かっている。 ふと不安になる。 彼には私以外の人がいる。 しかし私には彼だけが全て。 寂しくて、なんだか悲しくって、私は小さく「みゃあ」と零した。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加