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時を同じく食事をし、遊び、眠る。
そんな日常にたゆたう。
━━可愛いな、お前。
そう言って、彼は私の頭を撫でた。
聞き飽きたその言葉でも甘美で、思わず身を竦ませながら目を閉じる。
━━愛してる。
分かってるよ。
だって毎日どころか、一日中に何回も聞かされているから。
━━じゃあ、いってくるね
そう言って彼は玄関に向かった。
私と彼が出会った頃に買われた、白を基調としたスニーカー。
それもいつの間にか土の色をしていた。
その使い古しを履き、彼がドアに手をかける。
━━今日はデートなんだ。
そう嬉しそうに微笑んでみせた彼に、私はただ見送ることだけをした。
ぱたん
ドアが閉まる。
……とても悔しい。
私は誰よりも彼を知っているのに。
誰よりも彼と一緒にいるのに、いつも彼の一番は知らない女ばかり。
前の彼女に振られた時も、慰めたのは私だ。
毎日同じ布団で眠るのも私。
それなのに決して私は一番になれない。
仕方のないことだとは思う。
生まれついての叶わぬそれだと、よく分かっている。
ふと不安になる。
彼には私以外の人がいる。
しかし私には彼だけが全て。
寂しくて、なんだか悲しくって、私は小さく「みゃあ」と零した。
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