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「……って言うお話」
蝉の鳴き声が気だるい。
南向きの窓から差す日は鋭さを増し、いよいよ夏本番。
夏期休暇に至る終業式を納め、ようやっとホームルームも終えた。
教室の中に残る生徒はまばら。
その中で四人の生徒が一つの机を囲み、何かをある者は笑いながら、ある者は怯えながら話をしていた。
「うっわ、その階段ってどこにでもあんだな」
「康弘、イントネーション狂って怪談が階段になってるぞ」
おどけてみせた大柄な男、名前は康弘に、隆彦はメガネを押し上げながら淡白な注意をした。
「でも、そうだよね~。有名過ぎて怖くないよね~」
セミロングの髪の女子、真紀が言う。
「…………」
一人黒い髪を腰まで伸ばした女子がまったく口を開かない。
顔面は蒼白……とは言い難いものの、傍目にも怯えていると分かる表情の者。
彼女の名前は早苗。
「あれ?早苗……怖いんだ~」
真紀がチャームポイントである、大きな目を思い切り細め言う。
「こわくないヨっ!?」
声が上擦ってしまい、早苗は自身でも、しまったと思った。
「あ、じゃあさ、今夜この面子で肝試ししない?」
言い出したのは康弘。
「あ、それ真面目面白そう~」
「たまには面白そうだね」
康弘の提案に二人は即座に賛同した。
「で、でもさ、夜の学校になんてそうそうと忍び込めないよね?」
必死の様相で早苗が問う。
「いや、今日は僕が当番だから、渡り廊下から入る鍵があるし」
これまたしれっと隆彦。
「で、でもさ……」
「はーいはい、もう決まったんだから早苗はおとなしくする~」
真紀は楽しそうな声で早苗の主張を遮った。
「じゃあ、今日の夜九時に校門集合な」
斯くして非賛同者を一名含み、夏休み前ね肝試しは敢行されることとなった。
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