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見慣れた校門に見慣れた廊下。
見慣れた光景は、たった一つ夜であるというだけで嫌に不気味に映る。
かつ……ん
かつ……ん
足音が廊下に反響する。
リノリウムの床を蹴る音はややも間抜けていて、それがむしろおどろおどろしい。
「さて、ここが例の男子トイレなわけですよ」
三階の一番奥。
二つ並んだ入り口のその外側に男子トイレはあった。
普段から二階より上の教室を使う授業がないせいで、そのトイレを見るのは四人とも初めてとなる。
無論、これから中に踏み込むのだがそれこそ真紀と早苗には初めての経験だ。
「ねぇ……やっぱ辞めない?」
「無理だよ。康弘がここまで来たら辞める分けないしさ」
苦笑いを添えて隆彦が言う。
実は女子二人には隠していたが、このトイレの一番奥の個室にはラジカセが仕掛けてある。
勿論中身は『紙をくれ』だ。
康弘と隆彦は笑い出しそうになるのを必死に堪えながら、なんとかここまで持ってきた。
ここからがクライマックスだと男二人は心の中で気合いを入れる。
「紙をくれ~紙をくれ~」
満を持して響き渡った紙を催促する声。
その声を耳にして康弘は内心興奮し、余す三人は……隆彦も含めて顔面を蒼白にした。
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