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たった一秒が一分に感じ、一分が一時間に感じる。
時間感覚などはとうにマヒしていて、頭は混乱の最高。
鼓膜が裂けてしまいそうな程の沈黙が続き、堪えきれずに真紀は叫んだ。
「ふざけてんじゃないわよ!!」
その叫びは反響しながら闇の向こう側に掻き消える。
「仕組んでるのなんて見え見えなのよ!!早く出てきなさいよ康弘!隆彦!早く出ないと帰っちゃうよ!あと三つ数えるまでに出てきなさい!三、二、一、はいもう帰るー」
真紀は早苗の腕を掴み、下へと続く階段へと歩き出す。
「もー、本当に男子達はバカなんだから!見破られたんだから早く出てくればいいのに!ね、ねぇ、早苗もそう思うよね!」
がくんと足が止まる。
まるでイカリの様な重さに真紀は驚き、とっさに振り返る。
「ど……どうしたのよ早苗」
振り向いた先、早苗は俯きながらガクガクと震えていた。
カチカチと歯がぶつかり合う音は早苗の驚愕の音。
カチカチ
カチカチ
震える早苗の視線の先に真紀は見た。
「紙をくれ」
黒い。
真っ黒な腕が男子トイレの中から伸びていて、それがこれでもかと伸び、早苗の右足を捉えて離さない。
「紙をくれ」
「あ、やだ、真紀……助けっ、きゃぁっ!」
早苗の足がおおよそ人間離れした力により引っ張られ、うつ伏せに倒れる。
その際、真紀の手から腕が離れてしまった。
「早苗!」
真紀はつぶさに早苗の腕を掴もうとするも、しかし慌てにより早苗のショルダーバックにのみ手が掛かる。
「いやあぁぁぁあ!!」
そうして早苗は凄まじい速度で闇の向こう側に引きずり込まれてしまった。
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