カミヲクレ

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しばらくの間立ち尽くす。 確かに自分の目で認めた奇怪に足元から感覚を殺がれていく。 あんな物は居てはならない。 夢なのでしょうと思う。 しかし、それをも頭は否定する。 「紙をくれ」 体中のあらゆる神経が凍りついた。 低く地の底より響くその声に恐怖する。 右足首が変に生暖かい物に圧迫されているのは……つまりそういうことだ。 「やだあぁっ!!やめてぇっ!!」 手の内に残っているショルダーバックで、黒いそれを何度も叩く。 死にたくない、死にたくない、死にたくない…………。 何度殴打しようとそれは固いまま。 なんとか……なんとかしなくては三人のあとを追ってしまう。 そんなのは嫌だ。 私はまだ死にたくない………………っ! 何か起死回生の工程はないかとショルダーバックを開く。 その間にも黒い手の引きずり込まんとする力は増していき、立っているのが大した疲労を生む。 震える手でようやっとバックの中に手を忍ばせると、それが手に触れた。 ここに侵入する前に早苗が用意していたそれが。 「髪ならあるからぁっ!!」 真紀は叫びながらそのカツラを手に投げつけた。 途端に圧迫は緩み黒い手が真紀の足から離れる。 地面に落ちたカツラをその手が広い上げた。 「この髪だ……」 喜悦に酔いしれた声でそれが呟くと、巻き尺の様に闇の向こうへと消えた………………。 「助かった……?」 あまりにも呆気ない幕引きに真紀は疑問の声を上げる。 そうしてしばらくすると、三人を助けなければと考えが浮かび、体の震えを抑えながら歩き出した。 ……大丈夫、もう安全だから。 そう大した根拠も無い確信を胸にトイレの手前一メートルにたどり着いた。 そして間もなく、例によっと声が闇から呼びかける。 「いらないから返す」 と同時に三人程人の形をした物がトイレの入り口から投げられた。 ところでそれは人の形としては、足りない物があった。 しかし薄暗い夜闇の中で、真紀は近付いてからようやく知ることになる。 投げ出された三人には命の脈動は無く、また肩から上も………………。 後には三人の無事を確認せんがために近付いた真紀の悲鳴のみが残った。
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