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「おい、おどりゃ!殺しちゃるけぇ、こっちこいやぁ!おぉ?今、なんちゅうた?あぁ!おい!!」
「はぁん?われぇ、誰にゆっとんなら?おどれがクソじゃゆうたんじゃ、聞こえんか?ジジィ!おどれこそ、ぶっ殺したるけぇ、こいや。」
これが土曜日の13時の会話だ。
「おどりゃ、ダレのおかげで生きとれるか、わかっとんか?あぁ?」
「われ、じゃない事は確かじゃ。」
「上等じゃ!おどりゃあ!!殺しちゃるけぇ、そこ動くな!!」
祖父は箸を置いて台所へ向かった。
「あぁん?うっさいのぉ、ヤれるもんならヤってみいや。」
ボクは近くにあった鉄板いりの薄い学生カバンを手にして、チュウランを脱ぎ捨てた。
「おじいさん、止めてください。あんたも逃げんさい。」
包丁をもった祖父を祖母が止めに入った。
ボクはチュウランを手に外へ出た。
祖母が出てくると喧嘩は終わりだ。
崩壊する家庭すらないのを祖母は一生懸命家庭にしていた。
旧家のウチはプライドでいきる家だった。
だれにも優しく人気の祖母と、祖母のカリスマと人徳のおかげで議員になれる祖父、そしてボクの母の4人。
隣には本家のいとこ、母の兄家族がいて、子供三人は兄弟妹のように育っていた。
しかし、ボクに対する祖父とイトコへの対応は恐ろしく違い、ケンカの途中、祖父は必ず…。
「おどれには遺産はないけぇの、ビタイチやらんけぇのぉ」
…が口癖だった。
事実、死に際もイトコは間に合ったがボクは間に合っていないし、遺言書にボクの名前はなかった。
今なら、それもわかるようにはなったが…、母はいつも仕事をしている人だった。
ボクに関しては放任もいいところだった。
学校から呼び出されても、来た事はないし、逆に電話向こうで「忙しい!」と生活指導を一括していた。
オマケに母の料理の記憶は日曜日の焦げたハンバーグとクッキーとケーキ。
女としては割とモテていたからイケてるようだが、母としては?なイメージだ。
寂しい気持ちは隣の弟妹みたいなイトコと祖母の姉妹の親戚ねえちゃん達で感じる事はない。
女が周りに多い環境があったから、人付き合いは妙に上手い子供だった。
そして父の記憶はボクにはない。
幼い頃、母と別れたらしい。
それがボクの育った裕福でもないが不自由もないウチだ。
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