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そこには、下着のようなきわどいワンピースを着たすみれさんが暗闇の中仁王立ちしていた。
アパート外の電灯が逆光になり、かなり恐ろしい光景だ。
刺激的であるべき格好ではあったが、よくよくみれば刺激的など程遠い。
なんせすみれさんは右手に「鬼潰し」と書かれた一升瓶を持ち、左手にはするめ一枚、足元は健康サンダル。
ハンカチで作った猫耳を頭につけて現れたそのシルエットはさながらこん棒を持った鬼である。
何の偶然か、着ているワンピースまでトラ柄で笑えない。
そして酒の臭気に混じる、げろ臭。
つまり、彼女はりっぱな酔っ払いなのだ。
「おいコラ起きやがれぇー!すみれ様のおかえりだコラ!」
それでもって、すみれさんはとても酒癖が悪い。
大変めんどくさい。
「あんたんちは隣でしょ、酔っ払い」
「しゅうちゃんのアホー!明日隣のベランダから生ごみ投げ込んでやるー!」
「リアルな嫌がらせはやめてください、酔っ払い」
酔っ払いとは無敵である。
人のアパートのたたみに、外履きの健康サンダルで上がることが出来るくらいには。
仕方なくおれは布団から起き上がり、部屋の電気をつけた。
「うげ、きったない部屋ー!」
とかいいながら、すみれさんの顔はもっとひどかった。
化粧が落ちかけていて目の周りが黒ずみ、しかも片目の二重がとれている。
詳しくは知らないが、まぶたにノリのようなものをくっつけて一重を二重にしているらしいが、今はなかなかに無残だ。
泥酔した酔っ払いがそんなことを気にするわけもなく、すみれさんは勝手におれが寝ていた布団にあぐらで座り、「鬼潰し」を男前にもあおった。
結果、家主のはずのおれは追い立てられたたみに座った。
理不尽。
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