第一章 上洛

9/16
前へ
/266ページ
次へ
「サクラ様、お気づきになりました?」 ふいに佐吉がこっちをみて小さく笑った。 「な、にが……?」 高鳴る胸を押さえて、あたしは返事をするのが精一杯だった。 「旅をしていると、こうして周りの自然と一体になれるんですよ」 佐吉は気持ちよさそうに風に当たりながら続ける。 どこか、遠くを見るような目で。 「サクラ様は、これと決めたら周りを全然見ようとしない。でもそれは、人生の半分以上を損していることになるんですよ。 この旅だって、京の一歩手前で、ようやく気づかれた」 でもそれは、佐吉が──。 「よかったですね、おばあちゃんになる前で」 「!!」 「ぷっ」 今度はさっきまでと打って変わり、吹き出したらお腹を押さえて笑い出した。
/266ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1032人が本棚に入れています
本棚に追加