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「違うったら」
あたしは佐吉の視線から逃れるように、顔を背けると、一度は止めた足を再び踏み出す。
今度は早足で。
「サクラ様、いいですか?」
佐吉は荷物を担ぐと、小走りであたしの後を追う。
「殿が、留守中の会津を守れるのはサクラ様だけだと、そう考えて、
サクラ様を残して京へ行かれたのですよ。
サクラ様にどれほど、殿が信頼と期待をお持ちか、ご承知で…?」
「分かってるったら!」
本当によく分かっている。
佐吉の言わんとしていること。
そして、城中の人々の思惑が。
「でも、」
あたしは瞳からあふれる涙を、抑えることができず、
「でもね…、
佐吉も、殿も、只三郎様のことを、意識しすぎなのよ……!」
最後まで言いたいことが言えたか分からない。
意識とは関係なく、とめどなく涙が溢れる。
頬を伝う涙を押さえようと顔を両手で覆ったものの、指の隙間からこぼれ、乾いた地面を濡らした。
なんで、こんなに悲しいんだろう。
違う。
違うよね…?
そんなこと、あたしが一番よく知っているもの。
胸が苦しい。
悲しいんじゃない。
いつまでも過去に縛られている自分の不甲斐なさが許せなくなったから?
やっぱり、まだ、諦めきれないから?
お役目より、感情に振り回されていることに、少なからず衝撃を受けていたのも確か。
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