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「新選組、ですか」
この時分、新選組の名を知らぬ者はいない。
殿が名前を下された剣客集団。
とにかく実力主義で、先達ての池田屋事件では数人で斬り込み、長州勢を圧倒。
そのあと応援に駆けつけた会津藩士を中に入れなかったとか。
京から遥か彼方、会津の女中のあたしには、これくらいの情報しか入らない。
「江戸から、公方様をお守りするために来た、浪士集団なんだが……、その、」
「?」
あたしは必死に状況理解に努めた。
「少し、やることが派手と申すか。
融通が利かないと申すか」
殿が言葉に詰まるなんて珍しい。
特に、あたし相手で。
「ええ」
「で、あるから、秘密狸に新選組の動向を逐一報告してもらいたいのだ」
秘密狸……。
あたしはしばし思慮したのち、
「つまり、わたくしに、間者を勤めろと仰せでしょうか」
あたしは満面の笑みで拳を握る。
だって、これは、かなりの大役なんじゃない。
あたしが、今にも踊り出さんばかりの喜びっぷりに、
「殿!」
と、殿のすぐ近くに控えている、神保内蔵助様が慌て顔で口を出す。
「わたくしの、薙刀の成果を試すときが来たのですね……」
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