第一章 上洛

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「サクラ様、お待ちください!」 秋深まる、京の都へ向かう街道。 赤、橙、黄、茶……。 紅葉が織り成す錦が鮮やかな天井に、響くのはあたしの名を呼ぶ怒鳴り声。 その、あまりにも場違いな声に、旅人たちは一様に声のする方へ振り返ったのだった。 「あんまり大っきい声、出すもんじゃないわよ」 あたしは先ほどよりもずっと大きい声で応える。 さらに旅人は振り返る。 あたしはそんなの、気にもとめずに歩幅を広げる。 佐吉は少しだけ周りの目を気にしながら、早足であたしに追いつくと、今度は耳元で囁いた。 「ですが、そのように急がれなくとも──」 「声が小さくて聞こえないわね」 あたしは体を大きく見せるように、肩で冷たい風を切る。 佐吉はため息をもらす。 視界の端に、白い息が立ったのを捉える。 「夕刻には、京に到着いたしますから」 もう少しゆっくり歩きませんか? そう、言いたげだった。 すでにあたしと距離ができている。 「だらしがないわね、佐吉! あたしはとにかく早く、殿にお会いしたいのよ」 振り返って、今日一番の声。 きゅっと唇を噛む。 息が上がって、呼吸がしづらい。 あたしは肩を上下させた。 顔が冷たくて、鼻をすする。口元に手を持って行き、呼気で温めようとすると。 佐吉は胸元から懐紙を取り出し、あたしに一枚渡す。 「あ、りがと」 道の端により、スンと鼻をかむと、 「間もなく草津ですよ──温かいお茶でもいただいてから行きましょうか」 佐吉がふわっと笑う。 佐吉はあたしのことを心配してるのよね。 きっと、鼻が真っ赤だ。 鼻の辺りを隠しながら、今度は素直にうなずいた。
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