第一章 上洛

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あたしは小さい頃からお城で働いていた。 そのため殿の身の回りのお世話を仰せつかってきた。 けれど、京は危険だから、また、留守中のお国が心配だからと、会津に残るように言われたの。 なのに──、 「なのに、『何も言わずに京に来てくれ』なんて、ただ事じゃないわ」 会津をでるのも、ましてやこんなに長い距離を歩くのも初めてで、鼻緒が擦れて痛い。 でも、不逞浪士がはびこっている京で、殿はもっと苦しい思いをしているはずよ。 ついに鼻緒がぷまちりと切れてしまい、あたしは顔から前につんのめった。 気がつくと日も暮れており、気温が下がり、爪先が凍るように冷たくなっていた。 あたしがよろけたところを、佐吉はすんでのところで後ろからあたしを抱き留めると、呆れたようにため息をついた。 あたしはばつが悪くて顔をそらす。 「失礼します」 ───!? 体が浮いたかと思ったら、佐吉があたしの体を抱きかかえていたのだった。 「ちょっと」 あたしが暴れると、 「少し大人しくして下さい」 なっ、 だいたい、佐吉とは言え、殿方に抱きかかえられるなんてね、あっちゃならないでしょ? 有無を言わせない佐吉の真剣な顔。 もしかして、怒ってる……? 佐吉は帯に挟んであった手拭いを岩の上に広げると、あたしを下ろして座らせる。 無言であたしの切れた足ぞうりの鼻緒を直す。 あたしも黙って、佐吉の手元を見つめていた。
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