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あたしは小さい頃からお城で働いていた。
そのため殿の身の回りのお世話を仰せつかってきた。
けれど、京は危険だから、また、留守中のお国が心配だからと、会津に残るように言われたの。
なのに──、
「なのに、『何も言わずに京に来てくれ』なんて、ただ事じゃないわ」
会津をでるのも、ましてやこんなに長い距離を歩くのも初めてで、鼻緒が擦れて痛い。
でも、不逞浪士がはびこっている京で、殿はもっと苦しい思いをしているはずよ。
ついに鼻緒がぷまちりと切れてしまい、あたしは顔から前につんのめった。
気がつくと日も暮れており、気温が下がり、爪先が凍るように冷たくなっていた。
あたしがよろけたところを、佐吉はすんでのところで後ろからあたしを抱き留めると、呆れたようにため息をついた。
あたしはばつが悪くて顔をそらす。
「失礼します」
───!?
体が浮いたかと思ったら、佐吉があたしの体を抱きかかえていたのだった。
「ちょっと」
あたしが暴れると、
「少し大人しくして下さい」
なっ、
だいたい、佐吉とは言え、殿方に抱きかかえられるなんてね、あっちゃならないでしょ?
有無を言わせない佐吉の真剣な顔。
もしかして、怒ってる……?
佐吉は帯に挟んであった手拭いを岩の上に広げると、あたしを下ろして座らせる。
無言であたしの切れた足ぞうりの鼻緒を直す。
あたしも黙って、佐吉の手元を見つめていた。
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