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「佐吉があたしの心配してくれるのは分かるけど──殿のことは心配じゃないの?」
思わず口から出た言葉に、あたしは自分で驚いて黙ってしまった。
そんなはずない。
佐吉が、殿を心配していないわけない。
すごく、いやなことを言ってしまった。
でも、一度口に出したら、なかったことにはできない。
佐吉は顔も上げず、黙々と作業する。
直し終えた草履を足元に並べると、今度はあたしの足を取った。
「佐吉、」
「サクラ様」
あたしはびくっと肩を震わせる。
佐吉はあたしの足袋をゆっくりと脱がす。
冷たい佐吉の手があたしの指をなぞる。
抵抗するのも忘れていた。
「私は、サクラ様が幼い頃から、サクラ様のお側に仕えて参りました」
鼻緒で擦れて、血がにじむ親指と人差し指の間に、油紙を挟むと包帯をゆっくり巻き始める。
「私の一番私の近くにいらっしゃる、サクラ様のことを、一度に心配することは、悪いことなのでしょうか」
立て膝であたしに向かい合う。
まっすぐした眼差しで。
「え、と……」
やだ、
心の臓がやかましい。
なんで、佐吉はそんなにまっすぐにあたしを見るの?
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