第一章 上洛

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「佐吉があたしの心配してくれるのは分かるけど──殿のことは心配じゃないの?」 思わず口から出た言葉に、あたしは自分で驚いて黙ってしまった。 そんなはずない。 佐吉が、殿を心配していないわけない。 すごく、いやなことを言ってしまった。 でも、一度口に出したら、なかったことにはできない。 佐吉は顔も上げず、黙々と作業する。 直し終えた草履を足元に並べると、今度はあたしの足を取った。 「佐吉、」 「サクラ様」 あたしはびくっと肩を震わせる。 佐吉はあたしの足袋をゆっくりと脱がす。 冷たい佐吉の手があたしの指をなぞる。 抵抗するのも忘れていた。 「私は、サクラ様が幼い頃から、サクラ様のお側に仕えて参りました」 鼻緒で擦れて、血がにじむ親指と人差し指の間に、油紙を挟むと包帯をゆっくり巻き始める。 「私の一番私の近くにいらっしゃる、サクラ様のことを、一度に心配することは、悪いことなのでしょうか」 立て膝であたしに向かい合う。 まっすぐした眼差しで。 「え、と……」 やだ、 心の臓がやかましい。 なんで、佐吉はそんなにまっすぐにあたしを見るの?
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