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「ご、ごめん」
やっとの思いで絞り出したのは、そんな陳腐な言葉だった。
「あたし、そういうつもりで言ったんじゃあ──と言うか、いつも、何も考えないで喋ってて──」
あたしが顔全体を真っ赤させ、しどろもどろになるのを見ながら、佐吉は小さく笑った。
「紅葉みたいな色になりましたね」
ちょっと、誰のせいよ。
こんなになったのは。
頬を膨らませ、佐吉の肩をこずく。
「私も、サクラ様を困らせるために申し上げたわけではありませんよ」
佐吉はまだ可笑しそうに笑う。
あたしは恥ずかしいんだか、悔しいんだから分からないけど、赤い顔を袂で隠す。
「はは、隠したら可愛い顔が見えませんよ」
また変なことを言う。
「ちょっと、佐吉! 主人をからかって楽しいの」
「いいえ?」
明らかに、楽しんでいるわよね。
いくつも年は離れていないのに、負けた気がした。
佐吉はあたしの足に足袋と草履を履かせると、立ち上がって問うた。
「行きますか? それとも、少し休みますか」
あたしはもう、こう答えるしかなかった。
「休むわ」
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