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灯を点けたまま、寝床に入っても、暫く目が冴えて、それでもようやく寝入った頃だった。
「安彦」
夕方聞いたばあちゃんと同じ声。同じ調子。その声が、突然、俺の名を呼んだ。それに壁の向こう側を叩く様なくぐもった音。
壁の向こうはトイレだ。
――あの声はばあちゃん……だよな?なんでうちのトイレに……
不思議に思いながら、何? とベッドから返事をした。
「紙……紙がないんだよ…」
囁く様な、声。
聞こえる筈が無いのだ。あの時の声は、本当に微かで、聞こえるか聞こえないか微妙な、声だったのだから。
だが、俺は寝ぼけていたのだと思う。寒気もまるで感じなかった。
素直に部屋を出て、電気点けっ放しの台所へ行き、トイレットペーパーを取り出して、トイレへ持って行く。
そしてあくびを噛み殺しながら、トイレをノックした。
「ばあちゃんー……紙、持って来たよ!」
俺は扉のノブ下にトイレットペーパーを置いた。
「ここ、置いとくよ。おやすみー」
俺は返事を待たず、部屋へ戻った。
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