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その日は空が抜ける様に高かった。花を添える白い雲に、青が、地に近くなるにつれて淡くなる、そのグラデーションがたまらなく、和也には美しく見えた。
「和也、何見てるの?」
真琴のサラサラとした長い髪が、首を傾げる事で、肩から流れ落ちる。
秋だとはいえ、まだ九月。うっすらと、真琴の首にも汗が浮き、幾本か、髪の毛が張り付いている。
コの字型の校舎の屋上に、ひさしを渡して影にしている中庭のテラスには、日替わりの食堂車が、生徒達の注文に大わらわだった。三角巾をした若い男が、数あるカレーから各々の好みのルーをトレイに淹れて行く。
今日は……月曜はカレーの日だ。
「空」
ひさしの向こうに見える空。テラスは吹き抜けに近く、風の通りがいい。和也と真琴の髪が、風に靡いた。
突然、昨日の千紗の、寂しそうな笑顔が、和也の胸に去来した。
「和也」
突然、耳元に千紗の囁く声。和也は驚いて、声のする方を振り返った。
「ちさ?」
問い掛けたのは、真琴だ。真琴は千紗の、双子の妹だった。
「な、なんでこんなとこ、いるの?病院、入院してるんでしょ?なんで制服着てんの、ち……」
真琴の言葉など耳に入っていないかの様に、千紗はテラス入口から和也たちの方へ、歩いて近付いてくる。
和也はいる筈のない人間の登場にただ驚いただけだったが、真琴は、千紗が一歩一歩近付いてくる度に、少しづつ、血の気を無くしていった。
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