ばあちゃんは

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ばあちゃんは

夏休みだってのに、朝から学校で補習、補習。明日も補習。 でも良いんだ。 昨日から、両親と妹は三泊四日の熱海旅行に行っている。だから家には俺一人。 まあ、離れにジジババが居るけど。 明日、彼女を家に呼んだんだ。 そうなったら、彼女と二人っきり!! ああ、早く明日になんねえかな…… うちの家はは親の趣味で、町屋のリサイクル住宅だ。それに、元は地主の家柄だったらしいから無駄に敷地が広く、白壁の塀に囲まれている。ジジババの離れは、完全別棟だ。だから俺たち家族のいる母屋とはかなり離れてるんで、何かあっても、ジジババには多分気付かれないと思う! 夕闇の、オレンジの光が俺の影を、道の上に長く伸ばしている。見ていると、影さえ浮き足立っている様に感じて、俺はニヤニヤしてしまう。 田舎にしては住宅の密集した通りの角を曲がり、その辻にある、うちの家の門をくぐって、ホクホクしながら母屋の玄関を開けた。 「ただい、まっと」 靴を脱ぎながら土間を過ぎ、トイレの向こうにある、自分の部屋へ入ろうとした。 「安彦」 「うわっ!」 突然声を掛けられて、俺は一瞬総毛立つ程驚いた。血の気が引いたのが自分でも分かったが、意を決して振り返る。と、そこにいたのは、ばあちゃん。 「居るならおかえりくらい言ってくれよ!驚くだろ!」 怒ったふりをしながら振り返る。でもばあちゃんはこんな事では顔色一つ変えない。凄いバイタリティーある人なんだけどね。 「私ら、今日八時から寄合行くで、戸締まり頼むでな」 それだけ言うと、シャキシャキスタスタ離れへと行ってしまった。 寄合ってのは、自治会の集会所で行われる飲み会のことだ。はっきり言って、帰って来るのはいつも明け方。 ガラガラと扉の開閉の音がした。ばあちゃんが出て行った。 それを耳にして、やった! と叫ぼうとした、その時。 背に、冷たいものが走った。 ――何だ…? 後から考えると、悪寒ってヤツだったと思う。 俺はその悪寒を気のせいだと思って、流してしまった。 後から死ぬ程後悔するとも知らずに……      
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