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4
居酒屋を出た俺は、アイと供にアイのマンションに向かって歩いていた。
道路を渡り川沿いの道を歩いて行く。
ピンク色のネオンがぼんやりと輝く中で、娼婦たちがのんびりと客引きをしている。
その内の何人かはアイに話し掛けていた。
異国の言葉で会話するアイと娼婦を見ていて、何となくのどかな気分になった。
今まで生きてきた日常生活とはまるで違う空間にいることが、なんだかとても新鮮で楽しかった。
そんな事を考えている内にアイのマンションに着いた。
アイのマンションは「黄金町」のど真ん中にあり、川沿いの綺麗なマンションだった。
「ここです」
「へー、いい所に住んでますね……」
言葉とは裏腹に俺の心は不安で満ち溢れていた。
アイは鞄の中から鍵を取り出し、オートロックのドアを開けた。
「ここの二階ね」
俺はアイに続いて階段を登っていった。
部屋の前で立ち止まるとアイは鍵でドアを開けた。
「……どうぞ。何かはずかしいね……」
振り向いて俺に微笑みかけるアイの笑顔は、屈託のない純粋な少女の眼をしていた。
俺は迷わず部屋の中に入っていった。
玄関で立ち止まっている俺を押し込むように、アイは部屋の中に入って来て、ドアを閉め鍵を掛けた。
アイは俺を押しのけるように部屋の奥に進んでいった。
俺はアイの後に着いて行った。
短い廊下の奥にあるリビングにはアイの他に人の気配は無かった。
テーブルの上には食べかけのタイ料理が置きっぱなしになっていて、床にはタイの新聞や雑誌が散らばっていた。
俺はここが異国の世界である事を感じた。
そんな俺を尻目に、アイは食べ残した食器や雑誌を大急ぎで隠すように片付けていた。
「座ってください。今片付けますから。なんか、恥ずかしいね……」
照れくさそうに片付けるアイの姿は親しみがあり、とても色っぽかった。
俺はアイに言われた通りフローリングの床の上に腰を下ろした。
壁に掛かっていたカレンダーを見て、俺はふと今日が自分の誕生日だった事を思い出した。
「どうしたんですか?」
カレンダーを見詰めていた俺にアイが気づいた……。
【続く】
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