1958人が本棚に入れています
本棚に追加
「……忘れてた。今日、俺の誕生日だった……」
「今日が誕生日ですか?おめでとうございます」
アイは俺に近づいて来ると、テーブルの上に置いてあったピエロの置物を俺に手渡した。
「これ、誕生日プレゼントね。幸せな一年になりますように…」
アイからの突然のプレゼントに、俺は驚きを隠せなかった……。
「……ありがとうございます」
とっさにそれしか言えなかったが、俺は心の底から感動していた。
「ちょっと待っててください。今、つまみとビール持っていきますから……」
娼婦とはこんなにやさしい存在だったのか?
俺は生まれて初めて体験するやさしい温もりを、充分にかみ締めていた。
ぼんやりと部屋の中を見回すと、棚の上にタイの仏像が飾られていて、そこに供え物がしてあった。
俺は町の片隅に建てられている地蔵の事を思い出した……。
その地蔵もやはり様々な供え物がしてあり、花が飾られていた。
娼婦たちはあの地蔵をどんな風に思っているんだろうか?
その時、アイがビールを持ってきてくれた。
俺はアイと乾杯し、ビールを飲み込んだ。
「何を見てたんですか。恥ずかしい」
「アイちゃん、この仏像ってタイのものなんですか?」
「それタイの神様ね。私毎日それにお祈りしてる。今日も幸せでありますようにって……」
「町の路地の中にも地蔵があるじゃないですか。あの地蔵に供え物がしてあったんですけど、アイちゃんもあの地蔵に供え物するんですか?」
「あの地蔵ここの守り神ね。ここの女たち、仕事の事、国の家族のこと神様にお願いするね。みんな自分の国のやり方で願い事する。やり方はバラバラだけど、みんな幸せ願ってるね……」
いつの間にか俺の目から、涙がこぼれていた。
そんな俺にアイはやさしくキスした。
「あなた、やさしい人ね」
「アイちゃん……」
「もしよかったらこれから私とどうですか?私、今日から働こうと思ってたら店閉まってたね。私あなたの事好き。どうですか?」
それは気持ちいいほどストレートな売春の誘いだった。
しかしそれが逆に俺には純粋に思えた。
変に誘惑しヤラせてから金を請求するより、ずっと正直だと思った……。
【続く】
最初のコメントを投稿しよう!