プロローグ

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現在……。 俺は作家になって日本に帰ってきた。 ずっと外国を旅して世界中の色々なものを見てきた……。 日本に帰って来たのは数年ぶりだった。 俺は横浜の片隅にある何の変哲も無い住宅街を歩いていた。 今も昔の面影が少し残っている。 川沿いの道から路地裏に入って行く。 懐かしさに混じって何か寂しい気持ちがこみ上げてくる……。 この町は俺にとって特別な町だった……。 この町での体験が無かったら、俺は今とまったく違う人生を歩んでいただろう……。 ゆっくりと流れる川を見ながら、俺は狭い路地を掻い潜りある場所に向かって歩いていた。 ここに来たのはある人との約束を果たす為だった……。 俺の足元にそれは昔のままの姿で残っていた。 俺の目の前には小さな地蔵が立っていた。 名も無きこの地蔵に俺は手を合わせた。 町は変ってもこの地蔵がここにある事が俺はとても嬉しかった……。 もう三十年前になるが、この町で俺はとてつもない経験をした……。 それはとても綺麗な事ばかりではなかったが、まさに生きているという実感があった……。 そう、欲望と純粋さを持て余していた若き日の想いが今にも蘇ってくる。 この物語は、今は無き伝説のとある町の一角から始まる……。 【続く】
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