第一章 ピンクの町

2/59
1958人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
    1 夏の日の夕方、俺は薄汚い駅のホームに降り立った。 京急「黄金町」駅……、ここから俺の新たな物語が始まる……。 俺はコインロッカーに荷物を放り込み、この町に足を踏み入れた。 小さな改札を出て道路を一本渡った俺は、川沿いをテクテクと歩いて行った。 川の反対側には小さなスナックが隙間なく並び、薄暗くなりかけた道端をピンク色の照明がやさしく照らしていた。 飲食店の前には各店先に一人ずつ薄着の女達が立っていて、道行く男達に声をかけていた。 女達のほとんどがアジア系外国人で、片言の日本語で客引きする一方で自分達の異国の言葉でおしゃべりに花を咲かせていた。 横浜の片隅に位置するこの街「黄金町」は知る人ぞ知る売春街だった。 俺の名は春日春道。 高校を卒業した俺は暇を持て余していた。 大学に進学する気も就職する気も無かった俺は、日雇いの肉体労働をする以外とくにやりたい事もなく、ダラダラとマンネリ化した生活を送っていた。 そんな時、友達の北川大介が呼んでもいないのに家にやってきた。 北川は自分に彼女が出来た事を自慢しにやってきたのだ。 ずっと彼女がいなかった俺と北川は、どっちが先に女を作るかを密かに張り合っていた。 俺は北川に彼女ができた事にショックを受けた。 俺は自分がモテナイ事は充分知っていたが、北川は俺以上に冴えない男で女ができる確率はゼロだと思っていた……。 話を聞いてみると北川は出会い系サイトで彼女と知り合ったそうだ。 北川は飽き飽きするほど自慢話をして帰っていった。 北川が帰った後も俺はずっとイラついていた。 このまま俺はヤラハタ(ヤらずに二十歳)を迎えつまらない大人になっていくのか……? そんな事を考えているうちに無性に腹が立ってきた。 自分の部屋でゴロゴロしていた俺に母親は小言を浴びせてくる。 「なぜ進学しなかったのか?」 「働きもしないで家でダラダラしてるなら家の手伝いをしなさい!」 俺の中で蓄積していた何かがついに爆発した。 俺はバックに荷物を積め家を飛び出した……。 【続く】
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!