15人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ着慣れていない、ぶかぶかの黒い学生服を着た七澤希望は、自分が使っている傘とは別にもう一本持ったまま立ち尽くしていた。
激しい雨と暴風だった。傘があまり役に立たず学生服は水を吸って重たく希望にのしかかる。夜という闇がそこで支配する中、公園で傘もささずぼんやり上を見上げる彼女の姿を、なぜか希望の瞳は鮮明に捉えていた。
彼女は身動きひとつしなかった。ただ黙って雨に打たれ、ひっそり呼吸をしていた。それが、ーーーーー今までにないくらい儚い美しさを醸し出し、希望はその魅力に取り憑かれた。
どれくらい時間が過ぎただろう。ゆっくり彼女が首を下げ、希望のほうを見た。濡れた髪で顔が隠れよくわからなかったが、確かに彼女は笑った。それ以外する表情が見付からないというように。
希望は目頭が熱くなるのを感じながら傘を投げ捨てて、感情のまま彼女を抱き締める。
「もういい。こんな時くらい我慢しなくていいんだ、凪……」
見慣れないセーラー服を着た彼女が息を呑む。彼女の身体は冷たかった。温もりなど元々持っていなかったんじゃないかと思わせるくらい芯から冷えていた。
最初のコメントを投稿しよう!