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真っ赤に染まる、視界
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「泣いても、いいんだぞ」
「泣かないよ」
「…そうか」
「うん…」
夜毎、夢に見る、あの日。
一瞬で総てが赤く染まった、あの夜。
喪失感と、痛みと、迷い。
覚悟はしていた。俺達はいつ死んだっておかしくはなかった。死神になると決めた時、死すら覚悟した筈だった。
それでも揺らいだ、決意。
飛び散った鮮血、貫かれた友の体、付着した、暖かい朱。
右目を潰されても、痛みを感じている余裕なんかなかった。
ただただ、俺の周りは、紅かった。
目をそらす事も、現実を否定する事も出来なかったあの夜。
あの日から今の俺になるまでに、何度となく刀を握り、幾度も振り上げ、数え切れない程の死を見た。
俺はきっと強くなった。
青鹿も蟹沢も…あいつらの事は何十年経ったって忘れない、忘れる気もない。
俺は、これからもあいつらの分まで強くなって、此処で…みんなで目指したこの場所で、生きていく。
死んだヤツら全ての思いを背負うなんてのは格好つけだけど…
「強く、なるよ」
「…そうか」
大切なダチを失った。仲間も部下も何人も失った。
だから、少しでも多くを守れるように。
「俺、東仙隊長の副隊長に任命された」
「そうか」
「うん」
「……頑張れよ」
「ありがとう、阿近さん」
ポン、と俺の背中を軽く叩いて、阿近さんは歩き出した。
その背中は決して逞しくはないけれど。
…こうして俺を気遣ってくれる、アンタも、護りたいんだよ。
血に染まぬ道を目指すと、あの人は言ってくれた。
なら俺は、その為に尽くしたい。
例え何度紅く染まっても。
進む道が朱に侵されても。
この目が見る世界が、赤くても。
「もう、失いたくないんだ」
真っ赤に染まった世界の中で、
護る強さを。
「アンタも、簡単に死なないでね」
****
[修(阿修)]
修卒業後、副隊長就任前
仲間の死骸の中に立ち尽くす修兵。
阿近は慰め合うための人じゃない。
新種の虚は全て藍染の試作。
修の決意は始めから打ち砕かれて。
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