0人が本棚に入れています
本棚に追加
--------------------
1.壊れた微笑み
--------------------
「あこんさん」
鼻にかかるような甘ったるい声で名前を呼ぶ、その口元は僅かに弧を描いて微笑んでいた。
「あこんさん」
誘うようにその名を繰り返しながら、こちらを見るその眼は、まるで笑ってはいなかった。
「修兵」
名を呼んでやると、以前と変わらず笑みを深くする。なのにその眼はやはり笑ってはいない。こちらを見ている筈なのに、視線が合わない。死んだような眼。
口元だけは笑みの形を造り、その声は甘いというのに。
「だいすき、あこんさん」
唇が動いて好きだと形どるのに、心は此処にはない。
あの日から、此処に、心はない。
まるで心の半分を持って行かれてしまったように、修兵は壊れ始めた。
「だいすき」
まるで上滑りの言葉。
俺が応えないでいると、修兵は僅かに震えた声で、それでも甘く愛を囁き続けた。
こんなにも脆く、こんなにも弱い。
「あこん、さん」
応えて、と
声にはならず、唇だけが動いた。
「修兵」
「だいすきです、あこんさん…」
願うように、祈るように、乞うように。
甘い声が俺の名を呼んだ。
「あぁ、俺も、愛してる」
「……はい」
応えてやると、瞳を細めてようやく笑みを浮かべたその瞳から、涙が零れた。
壊れ物にでも触れるようにそっと抱き締めてやると、弱々しくも背中に手が回された。
耳元で小さく、修兵が囁いた。
それは祈りか、願いか、
「あなたは俺を棄てないで」
END
阿修。
隊長裏切り後。
精神的に脆くなってる修と、何も言えない阿近。
修がひらがな喋りなのは精神的に不安定な感じを出したかったんです…(無念…
最初のコメントを投稿しよう!