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2.外れた箍
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もっとも血に染まぬ道。
その道こそが正義だと、あの人は言った。
信じ、慕い、憧れ、命をかけたあの人がそう言った。
それは、この世界に混乱を起こし、現世にも大きな被害を与えること。
だけど、あの人は正義だと、言った。
ならば、
今まで俺が信じて歩んできた道は、一体何だったのか。
今まで俺を支えて来たのは、一体何だったのか。
あの人は、俺の正義、だった。
「そんな…嘘だろ…隊長が…裏切り?」
霊力が削られ、力がうまく入らない体が、ずるり、と支えられた腕を抜けてまた地面に膝をついた。
卯ノ花隊長の言っている事が、上手く理解出来なくて何度も口の中で繰り返した。
「隊長が…裏切り…」
膝をついた俺を、天廷空羅の届かなかった四番隊の隊員が不思議そうに、また困ったように見つめている。どこか冷えた頭がまるで他人ごとのように考えていた。
「…檜佐木副隊長?」
「…………あぁ」
現状に、頭がついていかない。慌てふためく余裕すらない。パニックを起こして怒るなり悲しむなり出来たなら、まだ良かった。
だけど俺は、まだ何も感じる事が出来なくて…力の入らない体を無理やり奮い立たせ、冷静さを保っていた。
「今すぐ、治癒回復を頼む。出来るだけ急いで、だ」
「しかし副隊長…少し休まれた方が」
「緊急事態だ。ある程度霊力が回復すれば構わない。急げ、副隊長命令だ!」
「ですが」
まだ言い淀む四番隊隊員に、俺は剣を抜いた。突きつけた切っ先が、首元を僅かに掠めて微量の血が流れた。
「急げ、と言っている」
「…っ、しばしお待ち下さい!」
四番隊は表情をひきつらせ、急いで治癒回復に入った。外傷はほとんどないため、回復が主になる。嫌な事に傷よりも回復の方が時間がかかる。
「……四番隊には特別な滋養強壮剤が支給されているな」
「は、はい…ですが、あれは」
「責任は俺がとる。今すぐに動ければ何だって構わない」
「檜佐木副隊長…」
事情を知らぬ隊員達はしばしお互いに顔を見合わせ、俺が引かないのを察したのか戸惑いがちに頷いた。
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