0人が本棚に入れています
本棚に追加
外れた箍
--------------------
「…我々のように医療知識のないあなた様には負担が多いかも知れません…それでも」
「構わない」
隊員が差し出した強壮剤を受け取るとすぐに口に含んで飲み込んだ。
するとすぐに力が漲るような感覚。
「…剣を向けてすまなかった。この件は俺が責任を持つ。ありがとう」
自分一人でも立てる事を確かめると、隊員達に頭を下げる。迷惑をかけて申し訳ないが、緊急事態だ。
俺は瞬歩を使って双極の丘へと駆け出した。一瞬でも早く、隊長の元に駆けつけたかった。隊長に会って、否定してもらいたかった。
あなたは俺の正義だ。
あなたの理想に、俺はついてきた。
優しく、穏やかなあなただからこそ。
俺はあなたの強さに憧れた。
追いつきたかった。あなたのすぐ後ろに、俺は居たかった。
命をかけて、あなたを守りたかった。
「隊長…」
俺よりも少し低い位置にあるその首筋に抜き身の剣を突きつけながら、俺はまだ感情がついてきてはいなかった。
少しばかり離れた位置で、藍染隊長が話しているのが、耳に入ってきた。
僅かばかり意識を向けはしたが、俺が聞きたいのは東仙隊長の言葉だけだ。
「隊長」
「…………」
聞こえていれない。
何も、言ってはくれない。
「……何故…」
「………」
「…隊長…」
何か…何か言って下さい…
東仙、隊長…
「下がれ…っ!」
その声とほぼ同時に、藍染隊長は光に包まれた。
「…メノス…グランデ…」
天が割れ、その間から姿を表したおびただしい数のメノス。その向こうに…
「…っ!」
光が降ってくる。とっさに身を引くとほぼ同じくして、やはり一瞬で反光が東仙隊長を包んだ。
…隊長。
「私の歩む道こそが正義だ」
見えている筈もないのに。
その時、あなたが俺を見た気がしたんだ。
何の前触れもなく、隊長は俺達の前から姿を消した。
混乱するソウルソサエティ、隊長達の抜けた穴。
揺れた、正義…
----
next
.
最初のコメントを投稿しよう!